2019年8月24日土曜日

職人の技術

お肉屋さんの職人さんはどんな事をしているのか



お肉屋さん猟師の普段の仕事風景


 僕はお肉屋さんで勤めて17年になります。一応?一流職人のレベルには到達していると思います。(本当?)普段どんな仕事をしているかを今日はご紹介したいと思います。

 僕達お肉屋さんも時代の流れに合わせて仕事内容が変化しています。変化していないところは・・・数年たつと廃業です。どんな職業も変化しなければお客さんに評価し続けてもらう事は出来ません。

 昔は牛を屠畜するところからが、職人の仕事だったようです。牛を屠畜し、皮を剥ぎ内臓肉を処理して枝肉にする。枝肉をお店の冷蔵庫に吊るし、捌いて筋を引き、製品に仕上げて陳列するのが一連の職人さんの仕事でした。今はこのような仕事をしているお肉屋さんはほぼないと思います。

 お肉を販売している場所が小売店、いわゆる専門店しかなかった時代は、流通もその業態に合わせて発展・実施されていましたが、今はさまざまな場所でお肉が買える時代。流通も随分変わり、昔ながらのお肉屋さんは絶滅危惧種になっています。現在の流通の主たる場所は量販店、つまりスーパーです。

 スーパーさんの店舗は売り場8割、バックヤード2割の構成が一般的です。つまり店舗内で加工する事は比較的少なく、現地で出来る限り手間をかけずに販売スペースに商品を陳列出来るかが、鍵です。これは価格にも非常に大きな影響を及ぼします。僕の働いているお肉屋さんは、売り場3割、バックヤード7割の構成です。

 専門店を回り、買い物をする時代から欲しい商品を一同に得ることの出来るスーパーはその利便性から消費者の支持を得て発展してきました。さまざまな大手スーパーがしのぎを削りあっていますが、お肉部門はまだまだ発展する余地のある部門の様です。ちなみに海外の大手スーパーは日本独特の流通についていけず、どの会社もほぼ撤退していますが、コストコだけは生き残っていますね。

 昔はあのようなホールセールスタイルは流行らないと言われていました。ダイエーがその昔アメリカの流通スタイルをフューチャーして、コストコのような業態を開発したことがありましたが、すぐに廃業していました。時代にそぐわなかったのでしょう。そう考えるとダイエー創業者は時代の数歩先を行く慧眼の持ち主だったのだと改めて思う次第です。

 一時小売店は絶滅してしまうのではないかと思われるぐらい衰退していましたが、現在はスーパーさんもお肉の売上を落としているようです。人口減少時代、これからの消費は伸びる事はしばらく無さそうです。

 スーパーさんはその流通特性からお肉は ”部分肉” と呼ばれる状態で仕入れています。また部分肉を各個店が扱いやすいように改良した ”スペック” と呼ばれる状態で仕入れる場合も多いです。主な利点は商品化する時に扱いやすい事と、在庫調整のしやすさなどです。

 扱いやすい、といっても部分肉は大きいもので20kgを超えます。平均的な一人前80gの焼肉屋さんで換算すると、なんと250人前!牛肉を扱うのに技術が必要な理由の一つに膨大な量のお肉を製品化する、商品開発力が上げられると思います。牛肉は様々な筋肉が折り重なって部分肉を作っているので、硬いところもあれば柔らかいところもある、小さな面積な部位もあれば大きな面積の部位もあると、変化に富んでいます。

 その全てに適切な価値をつけて販売・管理する事はなかなかの技術です。良くわからずに行っている業者さんも多いと思いますが、この技術は僕達専門店、お肉屋さんの命綱でもあります。部分肉それぞれの品質を見極め、適した仕事を行って製品化する事で、そのお店しかないオリジナルな製品を作ることが出来るからです。

 僕の働いているお肉屋さんは、昔ながらの枝肉から部分肉を作る、 ”捌き” を行っているお店です。最近のお肉屋さんは行わなくなってきた作業ですが、覚えるのにも時間が必要ですし、捌く人材を確保するにはそれ相応の人件費が必要になってきます。適切な利益を出せる会社でかつ、人材確保と人材育成の出来る会社でなければ実現できなくなってきました。

 捌きはお肉の専門店で必要とされる技術を習得するには何年もかかります。この大変さが捌きをしなくなってきた要因の一つであると思います。この捌きは現在は主に大手食肉メーカーさんが大型工場で行っています。皆さんも良く聞く 日本ハム や 伊藤ハム 
などのメーカーさんが行っています。

 その大手メーカーさんが作った部分肉が現在の流通の主流です。この主流に逆らうがごとく枝肉を扱っているのは、守るべき価値と、その守るべきものから新たな価値を生み出すためです。競合他社との競争に勝ち抜き、お客さんに指示されるためには、競合が行わない取り組みを行う事が良い方法の一つだと思っています。

枝肉とは


 下の写真は今日、僕が競りで買った黒毛和牛です。これは枝肉の右側。脊柱で半分に切り、左右合わせて一頭分の枝肉になります。アキレス腱の所に丈夫な金属製のフック(業界ではちんちょうと呼んでいます)をかけて逆さまにぶら下げています。
 






 下の写真は枝肉の評価をするために胸骨第6本目で切開した面です。この切断面を見ながら評価したりします。焼肉屋さんで見かける ”A5等級” なんていう評価もこの切断面を見ながら、日本格付協会(通称日格)という公的機関が、見本を見ながら決めています。











 が、どうしても見本を頼りに、格付けする人間の主観的な評価になってしまうので評価のばらつきがあったりします。評価する人間の好みなども反映されていたりするので、この格付けは参考程度に、枝肉を選別・購入する担当者独自の評価をすることが多いと思います。少なくともこの格付けは味などの評価は入っていないので、(もちろん事前に食べれません!)経験を頼りに、自社の求める価値のある枝肉を買い付けていきます。


 写真では解りにくいですが、この黒毛和牛の格付けはB-3です。A・B・Cというのは歩留まりを表しています。Aが73%以上、Bが70%以上、Cがそれ以下です。この歩留まりの評価方法は、主に先ほどの切断面の筋肉が占める割合から導き出されます。僕の買った黒毛和牛はBの評価なので、こうしてみるとあまり良い品質では無いのでは?と思うかもしれませんが、この歩留まり率は味などにはほぼ影響しない項目です。

 歩留まり率とは、枝肉から骨、大まかな脂を取り除いた時の、最初の重量からの減少率の事です。勿論歩留まりが良ければ産肉量が増え、それはそれで良いお肉の条件とも言えますが、僕の働いている会社では利益も重視していますが、一番は食べて頂いて美味しい事、これを第1条件にしています。ですから歩留まり率は僕達の評価では2番目以降の条件です。

 この歩留まり率は作業従事者の技術でもかなり変動します。僕達が枝肉から骨を取り除く作業、捌きを行うと大手メーカーさんと2~3%変わります。それは良い方にです。黒毛和牛一頭を100万円だと仮定すると、歩留まり率は1%で1万円の利益率の変動を伴う事になります。

 この一万円分が僕達の技術で算出している利益です。ただこの計算は効率は考慮していないので、時間が沢山かかるとその分人件費も掛かるわけですから、大手メーカーさんはそのぶん効率を最大限上げて商品原価を抑える工夫をされています。大量に仕入れて、大量に販売する訳ですから、効率は非常に大事です。

 その反面、僕達の様な専門店は大量に仕入れる事はありませんので、技術で丁寧な仕事を行い、その技術で利益を算出するスタイルです。ちなみに今日は黒毛和牛を2頭買い付けました。専門店で一日2頭買い付けするのはけっこう勇気が要ります。牛1頭から何百人前ものお肉が産出されるので、販売力が無いと出来ないです。

 産出したお肉は一日で全て売れるわけでは無いので、管理・保管する技術が必要です。同時に熟成も管理しなければいけません。全て同じ精肉製品になることもありません。ヘレ肉やサーロインといった高級部位はステーキ用に、カタロースはすき焼き用に、などそれぞれの部分肉に適したカットを施して商品化します。


 自分の行っている仕事をふと振り返って書いてみると、色んな取り組みがあるんだなと自分でも改めて認識した次第です。お肉屋さんの仕入れ担当はこんなことを行っています。

 今日は僕の日常業務のお話しでした。お肉の事で気になることがあれば、僕のわかる範囲でお応えします!


 P・s


 今日、ジャンボイノシシが現れました。このジャンボイノシシや如何に?



 次回にご紹介したいと思います。

















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